煮え切らない週末を繰り返していたところ、
ふとしたきっかけで釣りと再会した。
釣りに心を動かされたあの日から3か月。
それからは、時間のある休日のつど、
近所の堤防に出かけている。
季節は初秋。
早起きして家を出ると、
上着が無いと肌寒いくらい。
夏も終わったなー、と感じながら、
いつものように、
釣り道具を車のトランクに詰めて、
慣れた道をすいすいと走っていく。
季節によって、
釣れる魚の種類が変わるのが、
海釣りの面白いところの
一つだと分かってきた。
気温の変化を体で感じるだけでなく、
その時々に顔を見せてくれる魚で、
四季の移ろいを感じる。
小さい頃は、とにかく目の前の魚を
釣ることしか頭になかったけど、
そんな風流めいたことも
考えるようになってしまった。
引きこもりがちだった頃には
考えられなかったな。
「さて、今日はどんな魚と
出会えるんだろう?」
今日も、始めるか!
今回もサビキ仕掛けを
使ってみることにした。
最初の釣りでも使っていた仕掛けだ。
ただし今回は、エサのカゴを付けずに、
代わりにオモリを装着。
こうすると、仕掛けを遠くに
投げることができる。
その代わり、まきエサは使えないから、
ハリの動きだけで魚を釣らないといけない。
これは、この前に釣りをしたとき、
隣に居たベテランのご老人に
教えてもらった釣り方。
僕も慣れたもので、
ものの2,3分で仕掛けのセットは完了。
さっそく、海に投げてみる。
「どこに魚が居るんだろう・・・?」
目には見えない広い水中の世界を
想像しながら、
魚の潜んでいるところを探っていく。
今回はエサが無い分、
自分から魚を見つけないといけないのだ。
20メートルくらい先に投げたときに、
ククンと当たりが!
引き心地は軽いから大きな魚ではないけど、
小刻みにプルプルと糸が引っ張られて楽しい。
釣りあげてみると、サッパと呼ばれている、
10センチくらいの魚だった。
別名ママカリ、とも言われ、
岡山方面ではよく食べられる魚らしい。
とりあえず、今回も釣れてよかった!、
最初の魚が顔を見せてくれたときは、
思わず口元が緩んでしまう。
その後も続いて、今回はサッパが20匹くらいの大漁。
クーラーボックスに入れて、帰路に着いた。
・・・
ちょっと汗ばんだ体を、
扇風機の風に当てながら、
サッパを捌き始める。
そう、海釣りの魅力、第二弾。
釣りたての魚料理だ。
僕は普段料理はしない。
釣りを始める前も、今もそうだ。
平日なんて、大体コンビニでビールと、
適当なつまみを買って、
風呂上りに飲みながらウトウトする、という、
なんとも言えない、
男の寂れた食卓が続いている。
それがなぜだか、釣った魚だけは、
ちょっとこだわった料理をしたくなる。
最初こそ、
魚を捌くことは恐る恐るだったけど、
今どきは親切な人が
ネットで紹介してくれているし、
思ったよりも難しくない。
今回は、サッパの酢漬け。
まずさばいたサッパを塩もみして、
しばらく置いて水洗い
その後は、味付けの昆布と刻み生姜と一緒に、
酢に漬けて冷蔵庫で1日置くだけ。
これで良し。
朝早くから釣りをしたこともあって、
日曜のサザエさん辺りから目が虚ろに。。。
程よい疲労感で、
その夜はぐっすり眠った。
・・・
少し眠かった月曜日の仕事。
程々にこなして、足早に帰路に。
ちょうど、食べごろのはずだ。
20時。
帰宅後すぐに風呂に入って汗を流した後、
寝間着に着替えて、
冷蔵庫から日本酒とタッパを取り出す。
せっかくだから、、、
ガラス皿に盛りつけようかな。
クーラーの効いた部屋に飛び込んで、
定位置である座椅子にドカッと腰掛ける。
ちょっと特別な晩酌の始まりだ。
まずは、日本酒をぐいっと流し込む。
キンキンに冷やしていたので、
味はよく分からないのだが、
火照って乾いた喉を冷ましたと思ったら、
次は胃の中でジワーっと熱くなる。
「フーーーゥ」と大きなため息をつく。
ため息と一緒に、疲れも吐き出した気がした。
では、メインディッシュといきますか。
キラキラと輝く切り身を箸でつまんで、
口に運び入れる。
ギュッと噛みしめると、
程よく抜けた酢の酸味と、
魚の身の旨味がにじみ出る。
飲み込んだ後は、
刻み生姜の風味が口から鼻へ抜けて、
日本酒で緩んだ口の中を
さっぱりと締めてくれる。
その余韻をしばらく楽みながら、
空のグラスに、
一口分の日本酒をつぎ足し、
すぐにまた、グイっと飲み干す。
残暑にぴったりな、
素晴らしい取り合わせ。
釣った魚を自分で料理して、
日常の食卓に色どりをプラスする。
これもまた、釣りの楽しみの一つ。
コンビニで仕入れる食事たちは、
機械的に温めて、胃に放り込むだけ。
おとといきのう、何を食べたかすら
覚えてられないほど。
文字通りインスタントにこなす
仕事のようだ。
釣った魚となると、そうはいかず。
自分が頭を悩ませて釣った魚が、
美味しくなるような調理法を調べて、
一匹ずつ大事に頂く。
自分でも驚いたことに、
一つひとつ丁寧に、
口に運んでいることに気づき、
普段の自分が、
いかに雑に食べ物を扱っていたか、
思い知る機会にもなっている。
日本人とは切っても切り離せない、
魚料理との関係。
釣りをすることで、
食に対する思いも、少し変わるかもしれません。
Author: Wonder